転職後に「抑うつ状態」が生じて少々休みをいただくことになった。「抑うつ状態」が生じた社会的な原因は分析したのだが、発症の仕組みと原因をわかっていない。仕組みを理解して原因を取り除くことで、今後の対策としたい。
1. 発症の仕組みと原因
抑うつ状態が発症する仕組みは解明されていないようだが、生物学的要因と社会的要因が複雑に絡み合っており、多面的なものと考えられている。
- 神経伝達物質の機能低下(モノアミン仮説)
- ストレス応答の異常(HPA軸の不全)
- 脳の構造的変化と神経可塑性の低下
- 慢性炎症の関与
1.1. 神経伝達物質の機能低下(モノアミン仮説)
脳内で感情や意欲を司る「神経伝達物質(モノアミン)」のバランスが崩れることが発症に関与すると考えられている。
神経伝達物質 | トリガー | 役割 | 不足(機能が低下)すると | 過剰になると |
|---|---|---|---|---|
セロトニン | 合成にはトリプトファンが必要であり、光や運動はセロトニン神経系を調節する可能性がある | 気分や不安、睡眠などの調整に関わる役割を担う | 不安や抑うつを招くと考えられている | 「セロトニン症候群」(発熱・頻脈・下痢など)を引き起こすリスクがある。 |
ドーパミン | 快感を得た時だけでなく、それを予測した段階から放出される(主に、目標の達成と期待・報酬の予測・身体の動き・集中時・外部刺激により) | 楽しみや活動性を高める役割を担う | 「何もする気が起きない」といった意欲の低下に関与する | 依存症・衝動性の亢進・幻覚・妄想などのリスクがある。 |
ノルアドレナリン | 主に心身へのストレスや外的な刺激によって放出される | 覚醒・集中・意欲・記憶に関わる役割がある | 無気力や抑うつ状態を招くと考えられている | 不安感、緊張状態、覚醒過多などに関与する可能性がある。 |
1.2. ストレス応答の異常(HPA軸の不全)
ストレスを受けると、脳の視床下部から指令が出て、副腎からコルチゾール(ストレスホルモン)が分泌される(HPA系)。
通常は体を守るための反応であり問題ない。しかし、過度なストレスが長く続くとHPA軸の調節異常が起こり、コルチゾール分泌のリズムが乱れることがある。
これにより、海馬などの神経機能や神経可塑性に悪影響を及ぼす可能性があり、うつ病の発症に関与すると考えられている。
1.3. 脳の構造的変化と神経可塑性の低下
長期間のストレスや神経伝達物質の異常により、脳の特定の領域に変化が生じる。
領域 | 変化 |
|---|---|
記憶や感情の制御を司る「海馬」 | 海馬が小さくなることが観察されている(すべての患者ではない) |
神経細胞の成長や生存を助ける「BDNF(脳由来神経栄養因子)」 | BDNFが減少し、脳が環境に適応して回路を再構築する能力(神経可塑性)が低下する |
意思決定や感情コントロールを担う「前頭前野」 | 前頭前野の活動が弱まり、感情調節・判断・実行のバランスが崩れる |
1.4. 慢性炎症の関与
体の軽度の慢性炎症が脳内の炎症を引き起こし、それがセロトニンの代謝などに悪影響を与える。一部の人では、慢性炎症に伴う免疫反応が、神経伝達や神経可塑性に影響し、抑うつ症状に関与する可能性がある。
補足:慢性炎症について
ここでいう「慢性炎症」とは、目立った痛みや腫れ、発熱などの症状ではなく、ごく弱い炎症が体内で長期間続いている状態である。免疫細胞から炎症性サイトカインなどの物質が少量ずつ放出され続けることで、さまざまな病気の発症や悪化に関与すると考えられている。
慢性炎症は、肥満、運動不足、睡眠不足、慢性的なストレス、喫煙、過度な飲酒、栄養バランスの偏った食事、歯周病、慢性感染症など、生活習慣や病気が原因で起こることがある。また、加齢に伴って慢性炎症が起こりやすくなることも知られている。
1.5. 注意点
遺伝的なリスクが低い人でも、環境要因や身体的要因が重なることで発症する可能性がある。「誰でも発症する」という前提で考えておくべきものであることを念頭に置いておきたい。
2. 予防・改善するために
脳の回復を支える仕組みを保つために、生活習慣を整えることが重要である。根性や精神論で対処するのでなく、科学的根拠に基づいたセルフケアを積み上げることで予防・改善に繋げていくこと。
2.1. 適度な運動
適度な運動によりBDNFの産生が促進され、脳の健康維持や神経可塑性を高める効果が期待できる。特に、海馬などの神経可塑性を高める可能性がある。
「適度」とは?例えば...
- 少し息が弾むが会話はできる程度のジョギング
- 8〜12回でややきついと感じる負荷の筋トレ
2.2. 睡眠と体内時計
睡眠は脳の健康維持や神経可塑性を高め、そして神経伝達物質の適切な産生に関与する。
具体的には?
- 毎朝決まった時間に太陽の光を浴びること。
これにより、脳の「主時計」をリセットする。 - 夜間にスマホやパソコンの強い光を浴びないこと。
これにより、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑えられ、リズムが崩れてしまう。 - 必要以上の長時間睡眠は生活リズムを乱すことがある。
2.3. 食習慣の改善
意識したいのはセロトニンの材料である。
材料はトリプトファン・ビタミンB6・鉄など。
トリプトファンであれば、卵・乳製品・バナナなどから摂取できる。
ビタミンB6であれば、マグロや鰹などの赤身魚・レバーや鶏ささみ・バナナやブロッコリーなどから摂取できる。
鉄であれば、レバーや赤身の肉、魚介などから摂取できる。野菜だと、ほうれん草などの青菜類・大豆製品から摂取できる。ビタミンCと一緒に摂取するのがおすすめ。
これらの栄養素を十分に摂取することは、神経機能を正常に保つための土台になる。
全体を通しての注意
生活習慣の改善は、こころの健康維持や再発予防の助けになる。ただし、うつ病は脳・心理・環境など複数の要因が関与する疾患であり、生活習慣だけで必ず改善するものではない。症状が続く場合や日常生活に支障がある場合は医療機関への相談が推奨される。
参考文献
- うつ病の病態生理と診断 ― 薬剤師が押さえるべき基礎知識 - ためとこ
- 脳科学から見たうつ病 | すまいるナビゲーター | 大塚製薬
- うつ病の原因解明:脳内メカニズムと最新研究からわかること - 【公式】江東区 中央区の精神科/心療内科/リワークならりんかい月島・豊洲クリニック
- うつ病について | メディカルノート
- うつ病の原因 ストレスと年齢 | メディカルノート
- 脳とこころの病気について | 名古屋大学 脳とこころの研究センター
- ストレスと脳 | 理学部 | 東邦大学
- アドレナリンとノルアドレナリンの違いは?! |健康管理検定 :文部科学省後援
- ノルアドレナリンとは|分泌メカニズムや作用・不足や過剰分泌の影響やリスクを解説 | テヲトル
- セロトニンとは|役割や分泌メカニズム、増やし方から不足時の影響まで解説 | テヲトル
- ドーパミンに効果的な出し方はある?|役割や放出メカニズム・過剰や不足によるリスクを解説 | テヲトル